「陸王」を題材に商標登録の最適なタイミングを考える

TBS日曜劇場「陸王」が人気を博しているようです。
特許の話題が出てきたりしますので、我々弁理士も注目のドラマです。
そこで、本稿では、この人気ドラマを題材に商標登録をすべき最適なタイミングについて考えていきたいと思います。

あらすじ

私がご説明するまでもありませんが、念のため、「陸王」のあらすじをご紹介します。

埼玉県行田市にある足袋製造の老舗会社”こはぜ屋”が、これまでの足袋一筋の事業展開から、企業としての生き残りをかけて、新規事業であるマラソンシューズ「陸王」の開発を目指すという内容です。

昨日(2017年11月12日)放映された第四話では、
・「シルクレイ」の特許技術を利用したシューズのソールを用いた、新しい「陸王」の完成
・ランニングシューズ大手のアトランティス社のカリスマシューフィッター村野が同社を退職し、こはぜ屋と組み、「陸王」の開発のアドバイスをすることに
・ダイワ食品のランナー茂木が「陸王」を履いて、社内トライアルに臨む
といった新たな展開が生まれました。

「陸王」の位置づけ

「陸王」は、このドラマのタイトルになっているとともに、こはぜ屋が開発するマラソンシューズの名称です。
ドラマの中で、「陸王」を商標登録する、という話題が出てくるかどうかはわかりませんが、ドラマのタイトルにもなっていることですので、「陸王」の名称は重要な要素といえるでしょう。
また、実際のビジネスの現場で、このような重要な商品の名称を商標登録することは欠かせません。

そこで、以下では、商標登録を検討する・商標出願をするタイミングはいつが良いのか?ということを考えていきたいと思います。

商標登録の検討・商標出願の最適なタイミングは?

「陸王」の第四話までに、何度かマラソンシューズの名称の商標登録を検討すべきポイントがありました。
それらを挙げて、どの段階でマラソンシューズ商品の名称の商標登録を検討するのがベストなのかを考えてみたいと思います。

商品名候補の抽出段階

こはぜ屋がマラソンシューズを開発していくことを決定した後、早い段階で、”そのマラソンシューズの名前を考えなきゃ”ということになり、ホワイトボードに幾つものネーミング候補が書かれている映像が映されました。
この段階では、まだ商品名は決定しておらず、複数の商品名候補が出てきたという状況です。

日本の商標登録制度は、「先願主義」という考え方で成り立っています。これは、”早い者勝ち”ともいわれますが、早く特許庁に商標出願した者が優先されるという考え方です。具体的には、同じような商標が複数の者から出願された場合、(その他の商標登録の要件を満たしていれば)最初に商標出願した者が商標登録され、2番目以降に商標出願した者は、最初の商標と似ているから商標登録できない、ということを意味します。

先願主義ということを考えると、なるべく早く商標出願をした方が良いので、この段階で商標出願をすることが良いとも考えられます。
この段階では、商品名をどのネーミングにするかが決まっていないので、候補を全てとは言いませんが、優秀と考えられる幾つかの商標を出願することになるでしょう。

大企業であれば、この段階で早めに幾つかのネーミング候補を商標出願して押さえておくことも商標出願戦略としてアリかもしれません。

しかし、こはぜ屋がこの段階で商標出願をするのは得策ではないと考えます。
繰り返しになりますが、この段階ではまだ商品名は決定していません。ここで、複数の商標を出願しても、全て使わない商標となってしまう可能性もあります。商標出願をするにもコストがかかるので、こはぜ屋のような中小企業がこの段階で商標出願をするのはお勧めできません。

社長が商品名を決定した段階

ドラマの中では比較的早い段階で、こはぜ屋の宮沢社長がマラソンシューズの名称を「陸王」にすると決めました。
中小企業の中で社長の発言の影響力は大きいでしょうから、この段階で商標出願をしてしまっても良いかもしれません。
社長の思い入れが強く、絶対この名称でいくということであれば、この段階で商標調査をして、この商標を使っても大丈夫か、商標登録できる可能性はあるか、ということを検討するのもよいでしょう。

ドラマ「陸王」の場合は、この段階でも良いかもしれません。
しかし、実際の中小企業では、この段階での商標出願はやや時期尚早とも思えます。

(やや記憶が曖昧ですが)宮沢社長が商品名を「陸王」にするといった時点では、まだ商品開発の方はそれ程順調に進んではいなかったと記憶しています。
つまり、商品開発が失敗に終わる可能性もありますし、仮に商品開発ができたとしても、当初のコンセプト・特徴からは随分かけ離れたコンセプト・特徴の商品が出来上がる可能性もあります。このような場合は、当初のネーミングが商品のコンセプトや特徴に照らしてマッチしなくなることも考えられるのです。

商品化が見えてきた段階

「シルクレイ」特許権者の飯山をこはぜ屋の顧問に迎え「シルクレイ」特許技術を利用した新「陸王」を完成させ、さらに上述のように第四話では、村野という強力なメンバーをこはぜ屋のチームに迎えるなど、「陸王」の商品化がだいぶ見えてきた段階です。
また、「陸王」の名称もこはぜ屋の従業員の中でも違和感なく、浸透しているように見えます。

私見では、この段階で「陸王」を商標出願すべきと考えます。

(今後のドラマの展開はわかりませんが)「陸王」の商品としてのスペックやコンセプトの大枠はもう出来上がっているように思いますので、ネーミングと商品特性とのミスマッチは起こりにくい段階であると思います。

また、これからの対外的な営業活動においても、商標出願済みのしっかりとした商品名は必要になると考えます。

茂木が公式レースで履く・市販品を発売する段階

基本的には、この段階で商標登録を検討したりするのは遅過ぎます。
商標登録を検討する場合、通常、事前に商標調査をして、既に同じような商標が登録されていないか等を調べます。
もし商標調査をして既に「陸王」と同じような商標が他社に商標登録されていたらどうなるでしょう?

この場合、今から「陸王」を商標出願しても商標登録できませんし、商標登録できないだけならまだしも、その他社の商標権を侵害することになりかねません。

つまり、この段階で、商標「陸王」が使えないとわかり、名称を変更する必要が出てくる可能性もあるです。
この段階では既に、マラソンシューズ商品自体や包装箱に「陸王」と表示してしまっているでしょう。パンフレット・チラシなでも同様です。こうしたものから、「陸王」の名称を別の名称に変更する必要があるのです。
これらの名称の切り替えには損失が発生しますが、そもそも、レースや発売に切り替えが間に合うのか?というリスクもあります。

売上が大きくなってきた段階

この段階は「陸王」の市販品が売れてきた段階です。
この段階で商標登録を検討するのは明らかに遅過ぎます。もちろん、そのまま商標登録をせずにいるよりは、よっぽどマシですが。

ドラマから離れますが、現実の中小企業では、この時期に商標登録を検討されることが少なからずあります。
この時期は、既に、その商標の使用を開始しており、売上実績も上がっていて、名称の変更ができない段階ともいえます。
この時期に初めて商標調査をしてみて、実は、その商標が他社に既に商標登録されてしまっているというのは結構よくあることです。
偶然にして他社が同じような商標を登録していることもありますし、ある程度売れている人気商品の商標なので、アトランティス社のような意地の悪い企業が、こはぜ屋が「陸王」を商標登録していないのをいいことに、先に商標登録してしまっているかもしれません。

まとめ

・商標登録は”早い者勝ち”なので、なるべく早く商標登録出願をした方がよい
・商標調査をして、”使ってはいけない商標”であることが判明することもあるので、商標を使用開始する直前や既に使用している商標は要注意

無料相談はこちら。

トップページ