”新しいタイプの商標”のその後(2020年)

今(2020年8月)から約5年前、”新しいタイプの商標”が導入されました。
”新しいタイプの商標”制度の導入後、約5年が経過していて、もはや”新し”くもないかもしれませんが、従来からの商標との比較では、一応、今でも”新しい”というのでしょうか。
それはともかくとして、本稿では、”新しいタイプの商標”の商標登録の状況等について、検討致します。

”新しいタイプの商標”とは?

まずは、”新しいタイプの商標”とは何かというご説明をします。

従来からある商標は、商品名や会社名などを表す文字の商標や、ロゴマークやキャラクターの図柄などの図形の商標、「カーネルサンダース」や「ペコちゃん」の人形のような立体的な形状の商標でした。

これに対し、”新しいタイプの商標”は、次の5つの種類の商標のことをいいます。

1.動き商標・・・文字や図形等が時間とともに変化する商標です。
         動画のようなものがこれに該当します。

2.ホログラム商標・・・文字や図形等がホログラフィーなどの方法で変化する商標です。
            クレジットカードに付いていることがあるテカテカ光っていて、見る方向によって、異な            る図形などが見えるヤツなどが該当します。

3.色彩のみからなる商標・・・文字通り、色だけの商標です。
               単色のものと、複数の色が組み合わされたものがあります。

4.音商標・・・これも文字通り、音からなる商標です。
        例えば、テレビコマーシャルで聞ける久光製薬の「ヒ・サ・ミ・ツ」という音やエステーの「ピヨ        ピヨ」という音が該当します。

5.位置商標・・・文字や図形が付される商品などの位置が特定される商標です。
         例えば、ジーンズのお尻のポケットの特定の位置に付いている赤いタブなどは典型例です。

以上の5つの種類の商標が”新しいタイプの商標”と呼ばれる商標です。

なぜ”新しいタイプの商標”が必要なのか?

そもそも、商標とは何か?ということと関係します。

商標というのは、商品やサービスの出所、つまり、商品やサービスの提供者を区別するための標識です。

代表的な例を挙げると、コーラ飲料の容器に表示されている「Coca-Cola」の文字やスマートフォンに表示されている「リンゴ」のマークを見れば、それぞれ、どの事業者の商品かわかると思います。
ですので、こうした文字や図形は、従来からある最も典型的な商標といえます。

また、上述した「カーネルサンダース」や「ぺこちゃん」人形のような立体的なものも、これらが店頭に置いてあれば、どの事業者が提供する商品・サービスかわかりますので、こうした立体的な形状も「立体商標」として、1997年に導入されました。

しかし、商品・サービスの提供者を区別できるのは、文字、図形、立体的形状だけとは限りません。
そこで、海外諸国の商標制度も参考にして、日本でも上述の5つの種類の”新しいタイプの商標”が導入されたのです。

動き商標の出願・登録状況は?

2020年8月20日時点での調査では(以下、同様です)、動き商標の出願件数は192件です。
そのうち商標登録されているのは131件です。

商標登録されている動き商標の傾向としては、テレビコマーシャルで見かける映像のようなものが多いように見受けられます。そのため、商標登録している企業も大企業が多いと思われます。

動き商標は、映像を見てもらう機会がないと活用しにくいので、現状では、上述の傾向のようにテレビコマーシャルを流すことができる大企業に偏っていますが、将来的には、「ユーチューブ」などを利用した動き商標も出てくれば、中小企業にも動き商標を活用する機会が増えてくるかもしれません。

ホログラム商標の出願・登録状況は?

ホログラム商標の出願件数は20件で、商標登録されているのが15件です。

ホログラム商標は、やや特殊な商標ともいえるので、件数が極めて少ないです。

また、件数が少ないので傾向もつかみにくいですが、しいて言えば、金融・カード会社の商標登録が多いといえます。

ちなみに、比較的最近話題になった宝ホールディングス株式会社の「のみごろサイン」商標もホログラム商標です。
これは、日本酒のパッケージに表示されていて、温度によって、見える文字や図形、色の濃淡が変化するので、日本酒が飲み頃の温度になったことが視覚的にわかるという優れものです。

色彩のみからなる商標の出願・登録状況は?

色彩のみからなる商標の出願件数は543件で、商標登録されているのが8件です。

極めて特徴的な数字ですね。
出願件数は543件と多いのに、商標登録されているのは僅か8件です。

色彩のみからなる商標を商標登録するためのハードルはとても高いということがわかります。
上で、商標は、商品やサービスの提供者を区別するための標識と述べましたが、色だけで商品・サービスの提供者を区別するのは非常に難しいので、色彩のみからなる商標を商標登録するのは難しいと考えられます。

また、別の視点で、色だけで商標登録を認めると、その商標権は、もしかすると強力過ぎる権利になってしまう可能性があるので、特許庁も色彩のみからなる商標の商標登録を認めることに慎重なのかもしれません。

色彩のみからなる商標の登録商標8件は以下のものです。

(1)トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」の「青・白・黒」の商標
(2)セブンイレブンの「白・オレンジ・白・緑・白・赤・白」の商標
(3)三井住友フィナンシャルグループの「濃い緑・黄緑」の商標
(4)三井住友フィナンシャルグループの「濃い緑・黄緑」の商標((3)よりも黄緑が占める割合が多い)
(5)三菱鉛筆の「エンジ・黒」の商標
(6)三菱鉛筆の「エンジ・黒・金・黒」の商標
(7)ファミリーマートの「緑・白・水色」の商標
(8)UCC上島珈琲の「茶・白・赤」の商標

これら商標登録されている色彩のみからなる商標は、全て複数種類の色を組み合わせた商標です。
色彩のみからなる商標には、単色の商標も含まれますが、単色の色彩のみからなる商標は、さらに商標登録が難しい、私見では不可能に近いほど困難と考えられます。

音商標の出願・登録状況は?

音商標の出願件数は689件で、商標登録されているのが305件です。

商標登録された音商標は、動き商標と似たような傾向があるように思われます。
つまり、テレビコマーシャルで聞き覚えのある音商標が散見されます。
音商標の出願・登録件数が動き商標のそれらよりも圧倒的に多いのは、おそらく、動き商標の対象となるテレビコマーシャルの映像は視聴者に飽きられないように、比較的に頻繁に差し替えが行われるため、その結果、テレビコマーシャルの映像が商標として機能せず、動き商標の出願・登録件数が抑えられているのかもしれません。
一方、音商標は、テレビコマーシャルの最後に特徴的なメロディーや声で企業名や商品名が流れることが多いですが、こうした音は比較的に永続的に使われることが多い結果、視聴者にもよく覚えられていて商標として機能するケースが多く、これが音商標の出願・登録件数の多さにつながっているのかもしれません。

位置商標の出願・登録状況は?

位置商標の出願件数は507件で、商標登録されているのが79件です。

色彩のみからなる商標の傾向とやや似ています。
色彩のみからなる商標ほど商標登録のハードルは高くないようですが、それでも507件中79件の登録ですから、位置商標を登録するのも中々難しいと考えられます。
色彩のみからなる商標と同様に、位置商標が商品・サービスの提供者を区別するための標識として機能するのは比較的に難しいと考えられます。

このような位置商標ですが、商標登録されている商標を見ると、衣類や靴についての位置商標の登録が比較的に多いように思われます。

まとめ

5つの種類の”新しいタイプの商標”の出願・登録状況から次のようなことがいえると思います。

・動き商標と音商標は、テレビコマーシャルに関連した登録商標が多い。
 つまり、テレビコマーシャルを流すことができる大企業向きの商標と考えられる。

・色彩のみからなる商標と位置商標は、商標登録のハードルが高い。
 この高いハードルを乗り越えて商標登録するためには、色彩のみからなる商標や位置商標は、多くの広告をうった り、これらの商標を長年使うなどして、色だけ、或いは位置だけでも商品・サービスの提供者を区別できるように する必要があると考えられることから、これらも中小企業向きの商標ではないと考えられる。

・ホログラム商標は、出願も登録も極めて少なく特殊な商標。
 しかし、宝ホールディングスの「のみごろサイン」商標のように、アイデア次第では非常にユニークな商標になる かもしれません。

 

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