「ヒルドイド」VS「ヒルマイルド」

肌治療薬の「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」の間で紛争が起きているようです(2021年1月)。

「ヒルドイド」のマルホ株式会社(以下、マルホといいます)が、健栄製薬株式会社(以下、健栄といいます)の「ヒルマイルド」の商品名や商品パッケージが、「ヒルドイド」に似ていることから、商標権の侵害や不正競争防止法上の権利の侵害を理由に、「ヒルマイルド」の販売差し止めなどを求めて、大阪地裁に仮処分の申し立てを行ったそうです。

「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」の商標登録の状況

マルホも健栄も、それぞれ「ヒルドイド」、「ヒルマイルド」を特許庁に商標登録しています。

健栄は、さらに「ヒルドマイルド」も商標登録しています。

なお、マルホは、健栄の登録商標「ヒルドマイルド」(「ヒルマイルド」ではなく「ヒルドマイルド」であることにご注意ください)などを無効にするために、特許庁に無効審判という手続を請求しましたが、特許庁は、マルホ側の主張を受け入れず、健栄の「ヒルドマイルド」の商標登録を維持すると判断しています。

「ヒルマイルド」が「ヒルドイド」の商標権を侵害する可能性

上述の通り、健栄も「ヒルマイルド」を特許庁に商標登録しています。

つまり、特許庁は、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」は非類似、”別物”と判断した訳です。

また、マルホによる「ヒルドマイルド」に対する無効審判も特許庁は退け、「ヒルドマイルド」の商標登録を維持しています。

つまり、特許庁は、「ヒルマイルド」よりも、より「ヒルドイド」に近い「ヒルドマイルド」も、”別物”と判断した訳です。

特許庁が”お墨付き”を与えたとも言えるので、「ヒルマイルド」が「ヒルドイド」の商標権を侵害することはないようにも思われますが、商標権を侵害するかどうかの判断は、特許庁ではなく裁判所が行います。
そのため、裁判所が「ヒルマイルド」が「ヒルドイド」の商標権を侵害すると判断する可能性もあり得ます。

私見では、「ヒルマイルド」は「ヒルドイド」の商標権を侵害しないと考えます。

商標権を侵害しているというためには、少なくとも商標が同一又は類似である必要があります。
「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」が同一の商標でないことは明らかです。
となると、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」は類似するのか、ということが争点になります。

商標が類似するかどうかの判断は、商標の称呼(呼び方)、観念(意味合い)、外観(見ため)、取引の実情などを総合的に考慮して行われます。
現時点で私の方で、取引の実情を把握することはできませんので、商標の称呼、観念及び外観といった要素で考えると、以下のようになります。

称呼

「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」では、先頭の「ヒル」と末尾の「ド」の音が共通し、中間に「イ」の音が入っているでも共通しています。
音の共通点は多いのですが、「ヒルドイド」は発音したときに「ドイド」の部分が強く印象に残ります。
一方、「ヒルマイルド」の方は、「マイルド」という言葉が、一般に親しまれていることも手伝って、「マイルド」という音が印象に残ります。
そうしますと、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」は、十分に聴き分けることができるので、称呼は非類似、つまり似ていないと考えられます。

観念

「ヒルドイド」も「ヒルマイルド」も造語のようです。
「ヒルマイルド」の「マイルド」の部分は、既成語ですが、あくまで「ヒルマイルド」なので全体としては造語です。
造語の場合は、商標から特定の観念は生じない(特定の意味を把握できない)と考えられており、観念を比較することができないので、観念が類似するということにはなりません。

外観

称呼のところでも述べましたが、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」では、「ヒル」「イ」「ド」の文字が共通していますが、「ヒルドイド」には「ド」が2つあるのに対し、「ヒルマイルド」には1つしかなく、また、「ヒルマイルド」には、「ヒルドイド」には無い「マ」と「ル」の文字が付加されていますので、外観は非類似と考えられます。

以上のことから、先程も述べましたが、私見では、「ヒルマイルド」は「ヒルドイド」の商標権を侵害しないと考えます)

不正競争防止法上の権利の侵害の可能性

マルホ側が不正競争防止法に関して、具体的にどのような主張をしているかは不明ですが、平たく言えば、おそらく、商標(商品名)と商品のパッケージデザインが似ているから不正競争防止法に違反しているとの主張と思われます。

商標(商品名)が似ていなくても、商品パッケージが酷似していれば、「ヒルマイルド」、つまり、健栄の行為は不正競争行為に該当するとの判断もあり得ます。

「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」の商品パッケージの写真を入手したものの、仮処分事件で問題とされている商品パッケージと同じものであるか不明のため、比較しにくいのですが、不正競争防止法に関しては、私見では次のように考えます。

あくまで、私が入手した写真のパッケージでの比較であることを前提とします。

「ヒルドイド」も「ヒルマイルド」もチューブタイプの商品パッケージで、商品パッケージの形状は似ています。
しかし、チューブタイプの薬剤等の商品パッケージは、どれも同じような形状と思いますので、商品パッケージの形状が同じようであっても特に問題視されるものではないと考えます。

商品パッケージの色使いは、やや似ています。
両者ともに、チューブのキャップは濃いピンクで共通しています。
「ヒルドイド」のチューブ本体部分は、薄いピンクが背景色になっていて、濃いピンクの四角形や円形のデザインが施されています。
一方、「ヒルマイルド」のチューブ本体部分は、背景色が白で、濃いピンクの四角形と帯状のデザインが施されています。
(両者の濃いピンクの四角形のデザインとは、文字面では同じような印象を与えてしまいますが、実際のデザインでは四角形の形状は全く相違しています。)

濃いピンクの四角形の上に、黒い文字で商品名(それぞれ「ヒルドイド」、「ヒルマイルド」)が表示されている点は共通しています。

以上のような、商品パッケージの共通点・相違点を踏まえて、私見では、「ヒルマイルド」側(健栄)の行為は、不正競争行為には該当しないと考えます。

色々と共通点・相違点を述べましたが、大まかに言うと、ピンク色をベースにしている点は似ているのですが、パッケージデザインの細部では相違点が多いためです。
もし、「ヒルマイルド」が「ヒルドイド」との関係で不正競争行為を構成する物に該当すると判断されるのであれば、「ヒルドイド」のピンク色に一種の”権利”のようなものを与えるようで、妥当ではないと考えられるためです。

また、「ヒルマイルド」の方は、最近、大々的な宣伝広告活動を行っているようですので、こうしたことも「ヒルマイルド」が不正競争行為に該当しない方向に有利に働くのではないかと思います。

 

以上、駆け足で話題の紛争事件の感想を述べました。

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